eラーニング研究の動機と研究計画

 熊本大学大学院教授システム学専攻の入学願書に研究計画書を添えて出さなければなりません。以下のように書いてみました。


 私は中学校の社会科教諭でした。現職のとき次のような疑問を抱きました。
?社会科教育の目的は何だろう。
?現在の社会科の授業は、その目的を達しているのだろうか。
?社会科の本来の目的を達成するためには、何を教えればよいのだろうか、
?それをどのように教えればよいのだろうか。
?また、それをより確実・効率的に、能率的に習得させる方法はないだろうか。

 これらの問いの答えを模索しました。そんなとき学校現場の教師が大学院で学習・研究できる制度があることを知りました。もう定年退官されましたが、熊本大学教育学部の宮本光雄先生から、「熊本大学へ来ないか。」というお誘いを受けました。しかし、兵庫教育大学の岩田一彦先生との出会いがあったのです。
中学校社会科教育研究会の九州大会の研究テーマが岩田一彦先生の『地理教科書を活用したわかる授業の創造』(明治図書)を下敷きにしたものだったのです。同僚の社会科教師からこの本を紹介されて読んでみますと、初めて実践できる理論に出会ったと思いました。九州大会にも参加し岩田一彦先生の講演も聴くことができました。そして、この先生に会って質問をしたいと思いました。そこで
兵庫教育大学大学院での研修を希望しました。3年目にやっと許可されて兵庫教育大学大学院に行くことができたのです。しかし、岩田一彦先生のゼミに入るのにも競争があったのです。しかし、おかげて岩田ゼミに入ることができました。
 岩田一彦先生の御指導のおかげで、疑問の?、?、?については一定程度解決できたと思っています。しかし、疑問?については答えを得ることができませんでした。この疑問を解決する手がかりになるのが、教育工学ではないかと考えるようになりました。その中でプログラム学習が有効ではないだろうかと思いました。そこでこれらに関する書籍を読みました。また、単純な直線型のプログラム学習書を試作してみました。そうしている中で、問い・問題が重要だと気づいたのです。
 学習指導要領・指導要録が改訂され、学力観が変わりました。資料活用能力や思考力が重要視されるようになりました。一般に社会科は暗記教科・知識詰め込み教科と言われます。これにはつよい反発を感じました。社会科教育は暗記教科ではない、知識詰め込み教科ではない、社会科教育こそ資料活用能力や思考力を養うことを使命とする教科なのだと、思いました。しかし、そういわれても仕方のない側面もあるのです。それは評価の中心がテストで、そのテスト問題が知識の量を測定するものがほとんどだったのです。そのため、生徒はテストで高得点を得ようと暗記に走り、教師は暗記注入に奔走すると言う結果を生み、暗記教科・知識詰め込み教科と言われるようになってしまったのです。
 そこで、資料活用能力や思考力を測定評価できるテスト問題の開発研究に取り組みました。
資料活用も思考なのです。知識は思考の成果・産物なのです。問いがあって、思考が開始されます。その成果として知識を獲得します。問いの質の違いによって、思考の質も異なります。またその成果である知識の質も異なります。その違いによって、「知識」と呼んだり、「資料活用」と呼んだり、「思考」と呼んだりするのです。
 私は、その知識を生む資料活用能力や思考力(特に思考の中の推理力)すなわち方法知的学力を測定評価できるテスト問題開発に取り組んだのです。そして、その成果を『全国社会科教育学会』や『社会系教科教育学会』で発表してきました。
 このような研究に取り組んできたのには、もう一つの理由がありました。このような研究により、良質のテスト問題が開発できたならば、それらを構造的にうまく組み立てれば、資料活用能力や思考力と呼ばれる推理力すなわち方法知的学力を育成できるのではないかと、考えたからです。そこで、それを試作することにしました。それが「授業書・学習書」です。教える側から見れば、授業書ですが、学習する側からすれば自学自習することができるので、学習書だと思ったからです。ワープロを使って作成したペーパー(紙)版とパワーポイントを使って作成したプレゼンテーション版を作成してみました。コンピュータやIT技術は日進月歩いや分進日歩と進化しています。この技術を利用するならば学習者は自学自習がより大きく可能になるのではないかと思います。例えば、リンク機能を使えば、選択肢式の問題を作成し、その選択によってフィートバックしたり、学習コースが変わる仕組みのものを作れば複線型のプログラム学習となります。
 しかし、時間がなくこの研究はなかなか進みませんでした。そんな中、熊本大学でeラーニングをeラーニングで教える大学院を設置する構想があることを新聞で知りました。そこで、熊本大学にその資料をいただきに行ったこともあります。しかし、現職の頃は時間的なゆとりがなく、入学はしませんでした。定年退職が近づくにつれて、「私の人生も終わりだなあ。」と言う気分になり鬱々とするようになりました。退職後もその気分が続いていました。
 しかし、昨年の秋頃から、「やりたいが時間と金がなくて、できなかったことがたくさんあったなあ。今は残り少ないが、自由になる時間はある。わずかだが、金もある。やろうと思えばできるなあ。」と思うようになりました。コンピュータやIT技術の進歩により、機能は向上し、価格は低下するいわゆる「チープ革命」が起こっており、少ない資金で私が構想していたことが可能になってきていると言うことを、梅田望夫氏の『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』を読んで知りました。また梅田氏は、「時間的にゆとりがある我々シニア層にいずれなる総表現社会の重要な担い手になることを確信している」と述べています。また、「『文系のオープンソースの道具』が欲しい」と述べています。私は期待されるシニア層の一人であり、私が構想していることは「文系のオープンソースの道具」ではないだろうかと、と考えるのです。
もし、これが達成できるならば、この世でやり遂げたかったことが、実現するのです。

研究の計画
夢を語ってきましたが、eラーニングについては、ほとんど何も知りません。これまで、「eラーニング」という言葉が、目につけば本を読んできましたが、その中身である教材がどのような仕組みで作成されているのかわかりませんでした。『独習ソフトでFlashのすべてがわかる!!世界一わかりやすいFlash』についているCD−ROMの中身のようなものなのかなあ、と思っています。eラーニングと言って、授業風景をビデオで撮影し、それをそのままインターネットで配信するだけで「eラーニングでござい」と言うのでは、コンピュータやIT技術を生かしたものとはなっていないと思います。
 そこで、次のように研究の計画を立てます。
?既存のeラーニングの教材を調べ、その原理と作成方法、その特性、長所短所を比較吟味する。
?既存の教授理論を整理研究する。
?コンピュータやIT技術の機能を調べ、その機能を生かした教授システムを構想し、eラーニングの教材開発を行う。

 おそらく、プログラム学習を基本原理として行くことになるのではないかと思っています。しかし、近年プログラム学習に対して批判があることも知っています。それも克服したいです。また、システムエンジニアプログラマーなどのIT技術者との連携・協力も必要になるのではないかと思っています。できるかどうか自信はありません。しかし、やってみたいのです。